「リップヴァンウィンクルの花嫁」という映画を観た。
岩井俊二監督作品。
数か月前から楽しみにしていた。
日本アカデミー賞助演女優賞を2年連続で受賞した黒木華や綾野剛が出演するため、期待しかなかった。
端的に言うとちょっと期待しすぎたかもしれない。(私にはいろんなことにおいて期待しすぎる嫌いがある)
たぶん私の理解力が拙くて、半分くらい噛み砕けていないのだ。
映画の感想を書くのは私にとって幾らかの苦しみを伴う作業である。(鑑賞後その日のうちにあるいは、翌日に書けたら良かったのだが先延ばしにしているうちに数日が経ってしまった…)
思っていることを文章にできているとは思えないし、混沌とした気持ちを整理したくて書いているのになおさら混沌を究めているようにさえ思うから。
それでもこうして文章にしているのは、鑑賞後の記憶が鮮やかなうちに記しておきたいから。祈りに似た自己満足である。
※以下、映画の内容に触れています。知りたくない方は回避されたい。
前半は引き込まれた。
なさそうで、それでいて大いにありえる世界。嘘で塗り固められた世界。
SNSで知り合った大した恋慕もない相手との結婚。
知り合いの少なさから手配する代理出席者たち。
嘘で包まれた波風立たない世界はやがて崩壊する。
その荒れた海で主人公七海(黒木華)は投げ出され、途方に暮れる。
その大海で水先案内人を務めるのは謎の何でも屋の安室(綾野剛)。
彼は自らを演出することに長け、七海を助ける。(それらはすべて彼のクライアントである真白(Cocco)に七海を引き合わせるための計画である)
安室のような掴みどころのない飄々とした男を演じさせたら綾野剛の右に出る役者はいないと思う。
口説けない女はいないだろうし、騙せない相手はいない。
誰よりも社交的だけれどきっと本当の友だちは作らないような奴。
前半の嘘だらけの世界は不健全なんだろうけれどどこか美しかった。
誰も傷つかない世界。幸せな世界。
そんな世界は長く続かない。
行き場を失った七海は重い荷物を抱え疲れた身体を引きずる。
「どこへ行けばいいですか…」
七海の悲痛な嗚咽はとても他人事には思えなかった。
後半、お恥ずかしい話だが私の集中力は途切れる。
3時間にも及ぶ映画である、許してほしい。
私は長い映画が苦手なのです。
物語の終わり、七海の表情はどこまでも清々しく、瞳は遠くを見据えている。
そんな七海とは裏腹に、私は物語に置いて行かれた心地がした。
脳内に溢れるはてなマークや噛み砕け切れていないもやもやとした感情が胸に渦巻いていた。
物語の中で、七海は自分の結婚式に偽物の参列者を呼んだように、他人の結婚式に偽物の参列者として参加するバイトをする。
そこで出会った人々(彼らは七海の父親役、母親役、姉役(Cocco)、弟役だった)との間には奇妙な絆が生まれる。疑似家族の絆。共犯者の絆。
嘘に満ちたこの世界は優しく残酷な世界。
嘘をつく行為は極論、幸せを希求する行為ではあるまいか。
それは自分を守る行為であり、自分以外の大切な誰かを守る行為。
嘘に満ちたこの世界において幸せとはなんだろう。
この映画はそんなふうに問いかけてくる。
うーん、むずかしい…